不眠症の診断基準とは?診断方法や病院を受診するメリットを紹介
現代人の大きなストレス源として、睡眠障害や不眠症が挙げられます。仕事や生活の悩みなどからなかなか眠れない夜が続くと、さらにストレスが高まる負のサイクルに陥りがちです。 本記事では、不眠症の判断基準や病院を受診するメリットなどをご紹介します。不眠症を克服して心身ともに健康な生活を目指しましょう。
不眠症とは
不眠症は、睡眠の質や量に問題があり、日中の活動に支障をきたす睡眠障害の一種です。不眠症には4つのタイプがあります。
- 入眠障害(なかなか眠れない)
- 中途覚醒(夜中に目が覚める)
- 早朝覚醒(夜が明けるずっと前に目が覚めてしまう)
- 熟眠障害(睡眠は取れるものの睡眠の質が悪い)
不眠症では十分な睡眠が取れないため、次のような日中の症状が現れることがあります。
日中の症状例 |
眠気 |
倦怠感 |
イライラ |
集中力低下 |
記憶力低下 |
不眠症の原因や治療法については以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
『不眠症とは?原因や治療法・自分でできる治し方をわかりやすく紹介』
不眠症の診断基準
不眠症の診断基準としては、主に「睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)」と「精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)」の2つが用いられています。
これらの基準を満たした上で、原因となる他の疾患がない場合に不眠症と診断されます。
いずれの診断基準でも、睡眠の質や量の低下により日中の活動に支障をきたしていることが重視されています。
それぞれの判断基準について詳しく見ていきましょう。
睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)
不眠症の診断基準として、国際睡眠学会による睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)が広く用いられています。
ICSD-3では、睡眠障害を以下のように分類しています。
- 不眠症
- 睡眠関連呼吸障害群
- 中枢性過眠症群
- 概日リズム睡眠・覚醒障害群
- 睡眠時随伴症群
- 睡眠関連運動障害群
- その他の睡眠障害(特定の原因や状況による一時的な不眠症状など)
さらに、ICSD-3では不眠症の診断基準として以下のポイントを挙げています。
- 睡眠の質の低下、または十分な睡眠時間が確保できない
- 睡眠障害が日中の機能障害につながっている
- 睡眠障害は他の睡眠障害では説明がつかない
- 睡眠障害が少なくとも3ヶ月間続いている(短期不眠症を除く)
- 睡眠不足による緊張や頭痛、消化器症状
- 睡眠に関する不安がある
医師はこれらの基準から総合的に判断し、不眠症の診断を行います。
参考URL:国立精神・神経医療研究センター「睡眠障害国際分類(ICSD-3:2013年)」
精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)
不眠症の診断基準としてよく用いられるのが、アメリカ精神医学会が発行している「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」です。
世界共通の診断基準として用いられており、日本においても多くの病院で使われています。
DSM-5における不眠症の診断基準は以下の通りです。
- 主な症状として以下のうち少なくともひとつが3ヶ月以上続いている
- 入眠の困難
- 睡眠維持の困難
- 早朝覚醒してしまう
- 再入眠できない
- このような睡眠困難は、少なくとも1週間に3夜で起こる
- このような睡眠障害は他の睡眠障害(ナルコレプシー、呼吸関連睡眠障害など)によるものではない
- 睡眠障害が日中の機能障害の原因となっている
- 睡眠の適切な機会があるにも関わらず眠ることができない
- 睡眠障害は他の精神疾患による二次的な症状ではない
- 睡眠障害は物質(衣料品、乱用薬物)の影響によるものではない
このように、DSM-5では睡眠障害の症状のみならず、日中の生活への支障や他の身体的・精神的疾患の除外診断を重視しています。
参考URL:日本精神神経学会「DSM5 病名・用語翻訳ガイドライン(初版)」
参考文献:「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院)
不眠症の診断方法
不眠症の正確な診断には、睡眠専門医による検査が必要です。主な検査方法は以下の通りです。
- 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
- 睡眠潜時反復検査(MSLT)
PSGやMSLTなどの客観的な検査データと、症状の詳細な聞き取りから総合的に不眠症の診断が行われます。
それぞれの診断方法について詳しく見ていきましょう。
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)は、不眠症の診断に広く用いられている検査方法です。この検査では、一晩中の睡眠状態を詳細に記録・分析できます。
検査当日は、頭皮や顔、胸部などに小さな電極を装着し、脳波や眼球運動、心拍数、いびき、呼吸運動などを測定します。電極を装着したら、病院の睡眠検査室で一晩を過ごします。検査は夜間に行われ、就寝時から覚醒時まで一晩中モニタリングされます。
PSGデータを解析することで、以下のような情報がわかります。
- 睡眠潜時(入眠に要する時間)
- 睡眠段階の割合
- 睡眠効率
- 睡眠時無呼吸の有無
- 周期性四肢運動の有無
これらの客観的データから、不眠症の有無や重症度、原因となっている睡眠障害の種類などを判断することができます。
なお、当日は検査の妨げにならないよう、アルコールやカフェインの摂取は禁止されていることが多いです。病院により検査にかかる費用や日程は異なるため、事前によく確認しましょう。
睡眠潜時反復検査(MSLT)
睡眠潜時反復検査(MSLT)は、日中の眠気を測定する検査です。
2時間おきに5回入眠する様子を測定して、日中の眠気や入眠状態を検査します。入眠するまでの早さを測定し、眠気の強さを判定します。
睡眠潜時反復検査(MSLT)は、ナルコレプシー(睡眠発作)や過眠症(日中の過度の眠気)といった睡眠障害の診断に有用な検査です。
不眠症のセルフチェック
不眠症で苦しんでいる方は多くいます。夜なかなか眠れないと、朝は身体が重くて目覚めが悪く、生活のリズムが乱れてしまうでしょう。
眠れない経験は誰にでもあるものですが、慢性的な場合は不眠症の可能性があるかもしれません。不眠症によく見られる特徴をまとめましたので、確認してみてください。
- 寝つきが悪く時間がかかる
- 途中で何度も目が覚めることがある
- 起きたい時間よりも早く目が覚める
- 睡眠時間が足りていない気がする
- 眠りが浅い気がする
- 眠る時間が不規則である
- カフェインやアルコールをよく飲む
- 目が覚めたときに憂鬱な気分になる
- 日中の気分に問題がある(イライラ・やる気がないなど)
- 日常生活に支障が出ている(集中力が続かないなど)
- 日中に強い眠気がある
上記のチェックシートはあくまで参考のひとつであり、専門的な診断を置き換えるものではありません。自分の状態に不安を感じたら、専門医に相談してください。
不眠症の自己診断の注意点
不眠症は、その症状や原因が個人によって大きく異なります。多様な症状や原因があるため、自分で不眠症だと判断するのは難しいです。自己診断では見落としてしまう可能性があり、適切な治療が遅れるリスクもあるため注意しましょう。
本項目では、不眠症を自己診断する注意点を紹介します。
不眠症は症状や原因は個人によって異なる
不眠症の症状や原因は、個人によって大きく異なります。例えば、ストレスや生活習慣の乱れなどが原因の場合もあれば、うつ病などの精神疾患や肥満、高血圧症などの身体疾患に起因する場合もあるでしょう。
さらに、ある人は入眠障害、別の人は中途覚醒や早朝覚醒に悩まされるなど、個人差が大きいのが不眠症の特徴です。
不眠症の症状や原因には個人差があるため、一人ひとりに合った治療が大切です。自分で症状を正しく判断するのは難しいため、専門家に相談しましょう。
不眠症の原因については以下の記事で詳しく解説しています。本記事とあわせてご覧ください。
『つらい不眠症の原因は?自分ですぐにできる6つの改善策をご紹介』
正確な診断には医師の専門知識が必要
不眠症は、単に睡眠時間が短いだけでなく、さまざまな要因が複雑に絡み合っている病気です。自分で自覚している症状から不眠症だと判断するのは難しく、医師の専門的な診断が不可欠となります。
不眠症の診断には、以下のような医師の専門知識が求められます。
- 睡眠に関する正常値の知識
- 睡眠障害の病態生理学の理解
- 不眠症の分類と診断基準の熟知
- 他の疾患との鑑別診断の技術
例えば、睡眠時間が短くても、それが日常生活に支障をきたしていなければ不眠症とは診断されません。このように症状の評価には正常値の知識が必要です。
また、不眠症には以下のような種類があり、原因や症状に応じた適切な対処が求められます。
不眠症の種類 | 主な原因や症状 |
持続性不眠症 | ストレス、うつ病など |
一時的不眠症 | 環境の変化、一過性のストレスなど |
入眠障害 | 入眠に時間がかかる |
中途覚醒症 | 夜中に目が覚める |
このように、不眠症の正確な診断には高度な専門知識が必要になるのです。
不眠症を病院で診断してもらうメリット
不眠症を病院で診断してもらうことには、以下のようなメリットがあります。
- 個人に合わせた治療プランを提案してもらえる
- 睡眠障害の合併症を予防・改善できる
- 診断書を書いてもらえる
不眠症を病院で診断してもらうことで、的確な治療を受けられるだけでなく、合併症のリスクを下げて生活の質を向上させることができます。
以上のメリットについて詳しく見ていきましょう。
個人に合わせた治療プランを提案してもらえる
不眠症の治療法には、生活習慣の改善や認知行動療法、漢方薬や睡眠薬の服用などさまざまな方法があります。しかし、症状や原因が個人によって異なるため、一人ひとりに最適な治療法があるということには理解が必要です。
病院で診断を受けることで、医師が各個人の詳しい症状や原因を把握し、最適な治療プランを提案してくれます。例として、以下のような治療プランを組み合わせて提案してもらえるでしょう。
治療法 | 概要 |
生活指導 | 睡眠リズムを整える生活習慣の見直し |
認知行動療法 | 不眠の認知の歪みを修正する心理療法 |
睡眠薬 | 短期的な睡眠薬の処方 |
漢方薬 | 体質に合わせた漢方薬の処方 |
睡眠障害の合併症を予防・改善できる
不眠症を病院で正確に診断してもらうことで、合併症を予防・改善できます。例として挙げられるのが、以下のような合併症です。
- 抑うつ、不安障害などの精神疾患
- 高血圧、糖尿病などの生活習慣病
- 免疫力の低下による感染症のリスク増加
- 認知機能の低下
- 日中の眠気による事故の危険性
特に生活習慣病は、睡眠リズムの乱れが引き金となることがあります。また、認知機能の低下は高齢者に多く見られ、介護が必要になるリスクも高まるでしょう。
不眠症の原因を特定し、適切な治療を受けることで、これらの合併症のリスクを低減できます。症状が長く続けば、重大な合併症を引き起こす可能性がありますので、早期の受診が重要です。
診断書を書いてもらえる
不眠症の診断を病院で受けると、医師から診断書を発行してもらえるメリットがあります。診断書があれば、会社に対して休職などの配慮を求めることができますし、会社や各種手続きで提出する際の根拠としても役立つでしょう。
診断書には、疾患名、症状の概要、重症度、発症時期、治療経過などが記載されています。 また、健康保険が適用される場合があり、医療費の負担が軽減される可能性もあるでしょう。
不眠症の診断でよくある質問
本項目では、不眠症の診断を受ける際によくある質問を紹介します。
- 不眠症の診断名は?
- 不眠症の診断は無料で受けられる?
それぞれの疑問を詳しく見ていきましょう。
不眠症の診断名は?
不眠症の診断名は原因や症状によって異なり、主に以下の3つに分類されます。
診断名 | 内容 |
睡眠維持障害 | 夜間に繰り返し目が覚める、熟睡できない状態が続く |
入眠障害 | 寝つきが悪く、睡眠につくまでに長い時間がかかる |
非回復性睡眠症候群 | 睡眠時間は確保できるが、起床時に疲労感が強く残る |
上記の診断名は、不眠症状の特徴をもとに付けられます。また、不眠症の原因となる基礎疾患の有無で、「一次性不眠症」と「二次性不眠症」に分類されることもあります。
一次性不眠症は、生理的・心理的要因によって引き起こされる不眠症です。一方の二次性不眠症は、他の疾患や薬剤の副作用などに起因する不眠症です。正確な診断名を知ることで、適切な治療につながります。
不眠症の診断は無料で受けられる?
不眠症の診断を病院で受ける場合、診察料がかかります。不眠症の診断は保険適用されるため、自己負担額は通常の診療費用と同じです。
診察費用以外にも、詳細な検査が必要な場合は別途検査費用が発生します。上記で紹介した終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)などの睡眠検査を行う際は、事前に医療機関に確認しておくと良いでしょう。
高額療養費制度を利用すれば、自己負担額が一定額を超えた分については払い戻しを受けられます。まずは、かかりつけ医や専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
病院で正確な診断を受けることをおすすめします
不眠症は症状や原因が個人によって異なるため、自分で判断するのは難しいです。正確な診断には医師の専門知識が必要不可欠です。病院で診断を受けることで、以下のようなメリットがあります。
- 個人に合わせた治療プランを提案してもらえる
- 生活習慣の改善
- 睡眠衛生指導
- 認知行動療法
- 薬物療法 など
- 睡眠障害の合併症を予防・改善できる
- 高血圧、糖尿病、うつ病などの生活習慣病
- 集中力低下や作業効率の低下
- 診断書を書いてもらえる
自分で不眠症と判断するのではなく、睡眠専門医による正確な診断を受けることが大切です。
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まとめ
本記事では、不眠症の診断方法やセルフチェック方法をご紹介しました。
不眠症は、現代社会で多くの人が抱える悩みのひとつです。不眠症は単に眠れないだけではなく、集中力や記憶力の低下・倦怠感・体調不良や精神疾患を引き起こすリスクも高めてしまいます。不眠症の症状は個人差が大きく、さまざまなタイプがあるため、自分なりの対処法を見つけることが大切です。しかし、なかなか改善されない場合は専門家への相談をおすすめします。
みつだクリニックでは専門の心理士によるカウンセリングも行っているので、睡眠に関する不安がある方はお気軽にご相談ください。あなたの症状改善に向けて、経験豊富な医師が原因を探り、適切な治療法をご提案いたします。