パニック障害の診断とは?検査内容や診断基準・受診の流れを解説
突然の動悸や息苦しさが続くと、「これはパニック障害なのか」と不安になるものです。「どこを受診すればよいのか」「診断はどう進むのか」と迷う方もいるでしょう。
診断には、丁寧な問診や必要な検査、診断基準に基づく評価が欠かせません。
本記事では、パニック障害の診断方法や基準、検査内容、鑑別診断のポイントをわかりやすくまとめています。症状が気になる方は、受診の参考にしてください。
パニック障害の正式な診断基準とは
パニック障害を正確に診断するためには、医師が主観的な印象だけで判断するのではなく、国際的に統一された基準を用いて評価することが重要です。特に、精神科領域では「DSM-5-TR」と「ICD-10」という2つのガイドラインが診断の枠組みとして広く使用されています。どちらも症状の特徴や持続期間、生活への影響などを細かく定義しており、曖昧さを避けながら診断の精度を高めるために役立ちます。
この章では、それぞれの診断基準がどのような役割を果たしているのかをわかりやすく紹介します。
DSM-5-TR
DSM-5-TRはアメリカ精神医学会が作成した国際的な診断基準で、パニック障害を診断する際にも用いられます。医師はこの基準に沿って、予期しないパニック発作が繰り返し起こっているか、発作後に1ヶ月以上続く予期不安や回避行動があるかなどを確認します。
また、身体疾患や薬物の影響で説明できないかどうかも重要な判断ポイントです。DSM-5-TRでは症状による生活への支障も診断の手がかりとなるため、正確な鑑別に役立つ指標となっています。
ICD-10
ICD-10はWHOが定めた国際疾病分類で、医療全般で使用される診断コードの基準です。
パニック障害は「F41.0」に分類され、DSMとは異なり疾患全体を分類するための枠組みが示されています。ICDでも症状や経過を評価し、身体疾患で説明できないかどうかを確認します。
日本では診断書や保険請求にICDコードが用いられるため、DSMと併用されることが一般的です。国際的に統一された分類であるため、医療統計や研究領域でも重要な役割を担っています。
パニック障害の症状や原因については、以下の記事で詳しく解説にしています。ぜひご覧ください。
『パニック障害の原因とは?日常の注意点と発症・再発を防ぐポイント』
『パニック障害の治し方。取り入れやすいものから薬物療法まで紹介』
パニック障害の診断ステップ
パニック障害の診断は、単に「発作があったかどうか」だけで判断されるわけではありません。医師は、症状の背景や発作が起きた環境、身体面の異常の有無、心理状態の変化などを多面的に評価しながら、診断基準に当てはまるかどうかを慎重に見極めます。
ここでは、実際に医療現場で進められる診断の流れをわかりやすく紹介します。
STEP1:問診(症状・発作状況・不安の程度の確認)
診断の最初のステップは、医師による丁寧な問診です。発作がどのような状況で起こったのか、症状が始まるまでの経緯、持続時間、頻度、回避行動の有無など、症状の詳細を一つずつ確認していきます。
また、「次の発作が起きるのではないか」という強い不安が続いているかどうかも重要なポイントで、これはパニック障害の診断上欠かせない要素です。
問診では、本人がうまく言語化できない場合もあるため、できれば事前にメモを用意したり、発作が起きた状況を記録しておくとより正確に伝えられるでしょう。
STEP2:身体疾患の除外(必要な検査の実施)
パニック発作に似た症状を引き起こす病気は多く、診断過程では身体の異常を除外することが極めて重要です。そのため、必要に応じて血液検査、甲状腺機能のチェック、心電図、脳波検査などが行われます。頻脈や息苦しさが強い場合には、不整脈や心臓の病気を疑うこともありますし、発汗・震え・動悸が強いケースでは、甲状腺ホルモンの異常や低血糖が原因のこともあります。パニック障害と診断するためには、こうした身体疾患が見られないことを確認し、「精神的反応によって発作が生じている」と判断できることが必須条件です。検査と聞くと身構える方もいますが、より正確な診断につながる大切なプロセスです。
STEP3:心理検査・評価尺度で状態を数値化
問診だけでは把握しきれない不安の強さや発作への恐怖心、生活への影響を客観的に測るために、心理検査が用いられることがあります。不安の程度を測る「HADS(病院不安抑うつ尺度)」や、恐怖場面での回避レベルを確認する評価尺度などが代表的です。これらの評価は、本人の主観だけでは難しい部分を数値化し、医師が症状の全体像を立体的に把握するために非常に役立ちます。心理検査は治療方針を検討する際の参考にもなり、心理療法の適応を判断する材料としても用いられます。
検査形式は選択式のものが多く、負担が少ないため、初めての方でも安心して受けることができます。
STEP4:DSM-5-TRの診断基準に当てはまるか確認
問診・検査で得られた情報を踏まえ、医師はパニック障害の診断基準(DSM-5-TR)に照らして症状が一致するかを確認します。DSM-5-TRでは「予期しないパニック発作が繰り返し起こる」「発作後に1ヶ月以上、不安や回避行動が続く」といった条件が定められており、これらを満たしているかどうかが診断の重要な判断軸となります。
また、身体疾患や薬物の影響では説明できないかどうかも基準の一部に含まれます。基準を用いることで、医師の主観に左右されない、国際的に統一された診断が可能になります。基準に一部が当てはまらない場合には、他の不安症やストレス反応など、より適切な診断名が検討されます。
STEP5:鑑別診断を踏まえ、総合的に診断
最終的な診断は、「症状」「検査結果」「心理状態」「診断基準」の4つを総合的に評価して行われます。パニック発作は多くの疾患と症状が重なるため、誤診を避けるには鑑別診断が欠かせません。たとえば不整脈や甲状腺疾患、てんかん、低血糖発作などが疑われれば、追加の検査が必要になることもあります。
また、社交不安症や広場恐怖症、適応障害など、同じ「不安」を主体とする精神疾患と区別することも重要です。すべての要素を確認したうえで、もっとも症状の特徴に合致する診断名が決定されます。診断プロセスが丁寧に行われることで、治療の方向性も明確になり、発作への不安を軽減する第一歩につながります。
パニック障害の診断時に行われる主な検査
パニック障害の診断では、症状の背景に身体疾患が隠れていないかを確認するために、必要に応じていくつかの検査が行われます。
すべての人に必ず実施されるわけではありませんが、より正確な診断につながる重要な工程です。ここでは、主要な検査の役割を紹介します。
血液検査(甲状腺・ホルモン・炎症など)
血液検査は、パニック発作と似た症状を引き起こす身体の病気を除外するために行われます。特に、甲状腺ホルモンの異常は動悸や発汗、不安感などが現れやすく、パニック発作と区別がつきにくいため重要な確認項目です。
また、低血糖やホルモンバランスの乱れも強い不安やふらつきを招くことがあるため、必要に応じて追加項目を調べます。感染症や炎症の有無を確認する一般的な検査も併せて実施されることがあります。血液検査は短時間で結果が得られ、身体的な異常を客観的に把握できるため、鑑別診断の基礎として役立ちます。
心電図(不整脈や心疾患の除外)
動悸や胸の痛みを伴うと、心臓の病気を心配する方は多いものです。実際、不整脈や虚血性心疾患などは、パニック発作と極めて近い症状を示すことがあり、心電図はその鑑別に欠かせません。心電図検査は、心臓がリズムよく電気信号を送れているかを確認するもので、痛みもなく数分で完了します。発作が頻繁に起こる場合や、強い胸部症状がある場合には、より詳細な検査が必要になるケースもありますが、まずは心電図で安全性を確認するのが一般的です。
心臓の異常が否定されれば、パニック障害の可能性をより確かに評価できるため、安心して次の診断ステップへ進むことができます。
脳波(てんかんの除外)
強い恐怖感や意識がぼんやりする感覚があると、てんかん発作との区別が必要になる場合があります。脳波検査は、脳の電気活動を記録し、てんかんや他の神経疾患の有無を調べるために行われます。パニック発作とてんかんは症状が重なることも多く、特に「突然の発作」「意識が飛ぶ感覚」「ぼんやりする時間がある」といった訴えがある場合には、医師が精密検査を選択することがあります。
脳波検査は非侵襲的で安全性が高く、異常の有無を確認するうえで有効な手段です。診断の正確性を高めるために欠かせない検査の一つといえます。
心理検査(不安尺度・広場恐怖の程度)
問診だけでは把握しきれない心理的負担や不安の強さを、より客観的に評価するために心理検査が行われることがあります。「HADS」や「STAI」などの不安尺度、広場恐怖の有無を確認する質問紙などが代表的です。心理検査では、発作への恐怖、予期不安、回避行動の程度などを数値化できるため、症状の深刻度を正確に把握しやすくなります。
また、検査結果は治療方針を検討する際にも有用で、薬物療法が中心になるか、認知行動療法を併用すべきかなどの判断材料になります。選択式の質問に答える形式が多いため負担が少なく、初めて診断を受ける方でも安心して利用できます。
パニック障害と間違われやすい病気(鑑別診断)
パニック発作に似た症状を示す身体疾患や精神疾患は多く、正確な診断には鑑別が欠かせません。ここでは、パニック障害と混同されやすい代表的な病気を紹介し、どの点で見分ける必要があるのかを解説します。
心臓疾患(不整脈・狭心症など)
動悸や胸の痛み、息苦しさが強く出ると、心臓の病気とパニック発作の区別がつきにくくなります。不整脈の場合、脈が急に乱れたり飛んだりして不安感を伴うことがあり、本人は「突然死の恐怖」を感じるケースも少なくありません。狭心症は胸の圧迫感や締めつけ感が特徴で、発作性に症状が現れる点がパニック発作と重なることがあります。ただし、心臓疾患は身体的な異常が明確に存在するため、心電図や血液検査、必要に応じて負荷試験やエコーなどで鑑別が進みます。心臓に問題が見つからない場合、初めて心理的な要因による発作の可能性が検討されます。
症状が類似しているため、受診初期に心臓疾患を慎重に除外することが非常に重要です。
甲状腺疾患(バセドウ病など)
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されるバセドウ病では、動悸、発汗、震え、不安感など、パニック発作と酷似した症状が現れることがあります。特に、頻脈や精神的な高揚感、イライラが続く場合には、本人も精神的な症状と誤認することが少なくありません。甲状腺疾患は血液検査で簡単に確認できるため、心身に急な変化がある場合には除外が必須です。
また、治療によってホルモンバランスが整うと症状が改善するため、パニック障害との鑑別は非常に重要です。診断初期に血液検査を行う理由の一つが、この甲状腺疾患を見逃さないためでもあります。
低血糖・内分泌異常
低血糖は、急なめまい、冷や汗、震え、強い不安感を引き起こすことがあり、パニック発作と間違われやすい身体の状態です。血糖値が急激に下がると、脳がエネルギー不足に陥り、自律神経が過剰に反応するため、動悸やふらつきが現れます。
また、副腎などのホルモン異常による内分泌疾患でも、情緒不安定や緊張感、不安感が続くケースがあります。これらの症状は心理的な不安とは異なり、身体の代謝バランスが乱れていることが原因です。血液検査や内分泌検査で確認できるため、パニック障害と診断する前に必ず身体疾患を除外していきます。
てんかん発作
てんかん発作の一部には、強い恐怖感、胸苦しさ、意識の変容を伴うタイプがあり、パニック発作と誤解されることがあります。特に、発作の直前に不安が高まる「前兆」を感じることがあり、本人が「精神的な症状だ」と思い込むケースもあります。てんかんの場合、脳の電気的な異常が原因のため、脳波検査によって診断が進められます。
パニック障害は意識消失が起きることはほとんどありませんが、てんかんでは短時間の意識障害が起こることがある点が区別のポイントです。症状の重なりが多いため、初期段階での鑑別がとても重要です。
似た症状の精神疾患(社交不安症・広場恐怖症など)
パニック障害と似た症状を持つ精神疾患も多く、特に社交不安症や広場恐怖症は混同されやすい病気です。社交不安症では「人前に出る」「注目される」など特定の場面で強い不安が生じるのに対し、パニック発作は特定の状況と無関係に突然起こることが多い点が異なります。広場恐怖症は「逃げ場がないと感じる場所」への強い恐怖が特徴であり、パニック発作の予期不安と結び付きやすく、両方が併存するケースもあります。また、適応障害やうつ病でも動悸や不安感が強く出るため、症状だけで判断することは困難です。問診や心理検査を通して背景を丁寧に確認することで、適切な診断につながります。
パニック障害が疑われる方はみつだクリニックへご相談ください
パニック発作のような症状が続くと、「自分の状態がわからないまま生活すること」自体が大きな負担になります。みつだクリニックでは、丁寧な問診に加え、必要に応じた検査や鑑別診断を行い、パニック障害かどうかを総合的に評価します。症状の背景や生活への影響まで細かく確認し、一人ひとりに合った治療方針をご提案できることが特徴です。
不安がある方や初めての方、受診先に迷っている方でも安心して相談できる環境を整えております。「もしかしたらパニック障害かもしれない」と感じた時点で、早めの受診が改善への第一歩になります。
当院は予約制のため、初診・再診ともに事前のご予約をお願いいたします。
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パニック障害の診断に関するよくある質問
パニック障害の診断については、「診断にかかる時間」「診断されない理由」「診断書の扱い」など、疑問が多く寄せられます。
ここでは、特に受診前に知っておきたいポイントをまとめて紹介します。
パニック障害は診断されるまでどのくらい時間がかかる?
診断までにかかる時間は、症状の内容や必要な検査の有無によって大きく変わります。問診で症状の特徴が明確であり、身体疾患の可能性が低い場合は、初診の段階で診断がつくことも珍しくありません。ただし、パニック発作と似た症状を示す心臓疾患や甲状腺の異常、てんかんなどを除外する必要があると判断された場合には、検査結果を確認するために複数回の受診が必要になることがあるでしょう。
特に、「胸が苦しい」「脈が乱れる」「意識が遠のく感覚がある」といった症状が併発している場合、医師は慎重に鑑別を行います。診断を急ぐのではなく、安全性を確保しながら進めるため、診断までの期間には個人差が生じる点を理解しておくと安心です。
症状があっても診断されないのはなぜ?
動悸や息苦しさがあっても、必ずしもパニック障害と診断されるわけではありません。発作が特定の状況でのみ起こる場合は、社交不安症や特定の恐怖症の可能性がありますし、短期間の強いストレスによる一時的な反応であることもあります。
また、発作が1回だけの場合や、予期不安・回避行動が十分に認められない場合は、DSM-5-TRの診断基準に達していないこともあります。さらに、心臓や内分泌などの身体疾患の可能性が残っている間は、正確な診断を避けることもあるでしょう。
診断されない場合は「問題ない」という意味ではなく、むしろ慎重に評価を進めている証拠です。症状が続くときは、一定期間の経過観察を行いながら再評価することが大切です。
パニック障害の診断書はどこでも書いてもらえる?内科でも発行可能?
診断書は、基本的には症状の経過を把握している医療機関で発行されます。もっとも一般的なのは精神科・心療内科で、パニック障害の診断基準に基づいて作成されます。ただし、内科や総合病院の医師が診断・治療を行っている場合には、内科で診断書を発行できるケースもあるでしょう。とはいえ、パニック障害の診断には精神医学的な評価が欠かせないため、専門性の観点から精神科・心療内科での発行が望ましいとされています。
診断書発行にはいくらかかる?保険適用の有無は?
パニック障害の診断書は、医療保険の適用外となる「文書料」に該当するため、多くの場合は自費扱いとなります。費用は医療機関によって異なりますが、一般的には2,000〜5,000円程度が多い範囲です。診断名の記載の有無や、提出先(会社・学校・公的機関)によって文書の形式が変わる場合もあるでしょう。なお、休職のための診断書や傷病手当金の申請に必要な書類も、同様に自費での発行となることが一般的です。費用に不安がある場合は、受診時に「診断書はいくらかかりますか?」と確認しておくと安心です。高額な特別書類を必要とする診断ではないため、比較的手軽に発行できる点も特徴です。
診断書で休職はできる?会社にどこまで伝わる?
休職には医師の書類が必要ですが、会社に伝わる情報は提出する文書の種類によって異なります。正式な「診断書」は医学的事実を証明するため、原則として病名の記載が必要です。一方で、企業が病名の開示を求めていない場合は、「一定期間の就業が困難であること」だけを示した意見書や就業配慮依頼書として、病名を伏せた文書を作成できることがあります。会社に知られたくない場合は、先に人事へ書類形式を確認し、そのうえで医師に相談するとスムーズです。必要最小限の情報で手続きを進めることで、安心して治療に専念できます。
高校生・未成年でもパニック障害は診断される?
高校生や未成年でもパニック障害は診断されることがあります。思春期は心身の変化が大きく、不安症状が表れやすい時期でもあるため、学校生活のストレスや対人関係の不安が引き金となって発作が起こることもあるでしょう。診断の際は、保護者の同伴が求められることが多く、家庭での様子や学校での行動も含めて評価が行われます。
成人の診断基準と基本的には同じですが、未成年の場合は身体の不調を訴える表現が曖昧なことがあり、より丁寧な問診が必要です。早期に診断されれば、学校生活での支援や配慮を受けやすくなるため、気になる症状があれば早めに専門医へ相談することが大切です。
子どものパニック障害の診断は大人と何が違う?
子どもの診断では、症状の伝え方が大人とは異なるため、医師は行動面や生活状況を含めて総合的に評価します。子どもは「不安」「恐怖」を言語化しにくく、代わりに腹痛、頭痛、泣きやすさ、登校しぶりなどの形で症状が現れることがあります。そのため、身体疾患の除外を特に慎重に行い、必要に応じて小児科と連携することもあるでしょう。
また、学校生活のストレスや家庭環境の影響を評価することも不可欠で、周囲のサポート体制が診断後の改善に大きく関わります。成長段階に応じたアプローチが必要となる点が、大人との大きな違いです。
まとめ
パニック障害の診断は、問診から身体疾患の除外、心理検査、診断基準の確認まで、いくつかのプロセスを踏みながら慎重に進められます。動悸や息苦しさといった症状は他の病気でも起こるため、正しく鑑別することが何より重要です。
診断までの流れや必要な検査、診断書の扱いを事前に理解しておくと、受診時の不安や戸惑いも軽減しやすくなるでしょう。
「自分の症状がパニック障害かわからない」と感じる段階でも、早めに医師へ相談することが改善への近道です。一人で抱え込まず、適切な医療につながることで、日常生活の安心を取り戻す一歩を踏み出せるでしょう。