ADHDの治療薬。服用前に知っておきたい効果と副作用とは
ADHDと診断された方にとって、治療薬の服用は大きな決断となるでしょう。薬の効果や副作用について知ることは、治療への不安を和らげ、前向きに取り組む助けになります。一方で、副作用のリスクもあるため、医師と相談しながら慎重に進めることが大切です。
本記事では、ADHD治療薬について事前に知っておきたいポイントを詳しく解説します。正しい知識を持って、あなたに合った治療法を見つけましょう。
光田 輝彦監修
ADHDとは
ADHDは「注意欠如・多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)」の略称で、「不注意(集中力がない)」「多動・多弁(じっとしていられない)」「衝動性(考えるよりも先に行動してしまう)」を特徴とする発達障害の一種です。
ADHDは子どもの3〜7%に見られ、男児は女児の数倍の頻度で診断されると言われています。 遺伝や脳機能の偏りが原因と考えられていますが、病態の全容はまだ解明されていません。
ADHDの中核症状は、幼少期から青年期にかけて変化していきます。 年齢とともに多動性は目立たなくなる一方、不注意の症状は持続する傾向にあります。 ADHDの特性を理解し、適切な治療やサポートを行うことが大切です。
ADHDの種類や特徴については以下の記事で詳しく解説しています。自身やお子さんのADHD症状にお悩みの方はぜひご覧ください。
『ADHD症状あるある!ADHDの種類や特徴・コントロール法』
ADHD治療薬の効果
ADHD治療薬を服用すると、以下のような効果が期待できます。
- 中核症状(不注意、多動性、衝動性)の改善
- 二次障害の予防
- 社会生活の質の向上
それぞれの効果について詳しく見ていきましょう。
中核症状(不注意、多動性、衝動性)の改善
ADHDの中核症状である不注意、多動性、衝動性は、適切な治療薬の服用により大幅に改善が期待できます。各中核症状に対する薬の効果は以下の通りです。
- 集中力向上、ミスの減少
- 多動性の改善
- 衝動性を抑え、熟慮してから行動できるようになる
治療薬は脳内の神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンの働きを調整することで、中核症状を和らげる効果を発揮します。その結果、日常生活や学習面での困難が軽減され、本来の能力を発揮しやすくなるのです。
ただし薬の効果には個人差があるため、医師と相談しながら適切な薬の種類と用量を見極めていくことが肝要です。また薬の効果を最大限に引き出すためには、服薬を規則正しく継続することも重要なポイントとなります。
二次障害の予防
ADHDの二次障害の代表的なものは以下の通りです。
ADHDの適切な治療により、このような二次障害の発症リスクを下げることができます。薬物療法では中核症状が改善されるため、失敗体験や周囲との軋轢が減り、二次障害の予防効果があります。早期発見・早期治療がポイントです。
社会生活の質の向上
ADHD治療薬は、日常生活や社会生活の質を大きく向上させます。多くの患者さんから、以下のような改善が報告されています。
生活の場面 | 改善例 |
仕事 | 作業効率アップ、ミス減少、納期厳守 |
学校 | 授業への集中力向上、宿題忘れ防止 |
家庭 | 家事の計画的遂行、子育ての安定 |
対人関係 | 会話の聞き漏らし減少、衝動的発言の抑制 |
服薬により注意力や集中力が高まることで、仕事や学業のパフォーマンスが向上します。また、感情のコントロールがしやすくなり、衝動的な言動を控えられるようになるため、良好な人間関係を築きやすくなったという経験談も多く見られました。
薬物療法は、ADHDの特性とうまく付き合いながら、充実した社会生活を送るための有力な手段の一つと言えるでしょう。
ADHD治療薬の種類と特徴
ADHD治療薬は基本的に医療保険の適用対象となるため、経済的負担を軽減しながら治療に取り組むことができます。費用面で不安を感じる方は、まずはお住まいの自治体に助成制度について問い合わせてみると良いでしょう。
ADHDの治療薬には、以下のような種類があります。
薬剤名 | 商品名 | 特徴 |
メチルフェニデート | コンサータ | 中枢神経刺激薬。1日1回の服用で効果が持続。 |
リスデキサンフェタミン | ビバンセ | 中枢神経刺激薬。覚醒作用が強く、食欲抑制の副作用あり。 |
アトモキセチン | ストラテラ | 非中枢神経刺激薬。衝動性や多動性にも効果的。 |
グアンファシン | インチュニブ | 非中枢神経刺激薬。就寝前の服用で翌日効果が持続。 |
これらの薬剤について詳しく見ていきましょう。
メチルフェニデート(コンサータ)
メチルフェニデート(コンサータ)は、ナルコレプシーやADHDの治療に使われる中枢神経刺激薬です。中枢神経刺激薬は、ドパミンとノルアドレナリンの利用量を増加させて中枢神経系に作用し、その機能を活発化させる薬を指します。
12時間持続型の徐放剤で、1日1回の服用でも効果が持続すること、多動性や衝動性の改善に高い効果があること、効果の発現が比較的早いことから、ADHD治療薬として広く用いられています。
副作用としては、食欲不振、吐き気、腹痛などの消化器症状、不眠、頭痛、めまいなどの神経系症状、依存性などが挙げられます。
うつ病を患っている方はメチルフェニデート(コンサータ)の服用で症状が悪化する可能性もあるため、管理と使用には十分な注意が必要です。服用に際しては医師とよく相談し、副作用などの注意点を理解した上で治療を進めましょう。
リスデキサンフェタミン(ビバンセ)
ADHDの治療薬として使用される中枢神経刺激薬です。上記でご紹介したメチルフェニデート(コンサータ)と同様に、ドパミンやノルアドレナリンの放出を促進し、再取り込みを阻害することでADHDの症状を改善します。
6歳以上から服用でき、1日1回の服用で効果が持続します。
副作用としては、食欲不振、吐き気、腹痛などの消化器症状、不眠や頭痛などが挙げられますが、その多くはしだいに軽減するため安全性に大きな問題はありません。
子どもが服用する場合は体重や身長の変化に留意し、大人がしっかりと管理しましょう。効果と副作用のバランスを見極めながら、医師と相談の上で服用を検討することが大切です。
アトモキセチン(ストラテラ)
アトモキセチン(ストラテラ)は、衝動性や多動性に効果的な非中枢神経刺激薬です。非中枢神経刺激薬は、脳内のノルアドレナリンの働きを調整することでADHDの症状を改善します。
中枢神経刺激薬に比べると依存性もほとんどなく、副作用も比較的少ないため、6歳以上の子どものADHD治療に用いられていますが、成人にも処方可能です。服用開始から効果が現れるまでに2〜8週間程度かかるため、効果の発現が比較的緩やかです。
副作用としては、食欲不振や腹痛などの胃腸症状、頭痛、めまい、眠気などの神経系症状、怒りっぽくなることなどが挙げられます。
子どもが服用する際は、いつもと様子が違ったり重い副作用がでたりしないか、大人がしっかりと見守りましょう。
グアンファシン(インチュニブ)
グアンファシン(インチュニブ)は非中枢刺激薬であり、選択的α2Aアドレナリン受容体作動薬に分類されます。服用することで前頭前野の機能を高め、注意力や衝動性のコントロールの改善が期待できます。効果の発現は緩やかで、服用開始から数週間かけて徐々に現れます。
アトモキセチン(ストラテラ)と同様に、子どもは6歳以上から服用でき、成人にも処方可能です。
副作用としては眠気や倦怠感、重いものだと低血圧や徐脈が挙げられます。子どもが服用する場合は、大人がしっかりと見守りましょう。グアンファシン(インチュニブ)は、個人差はあるものの、副作用の少ない比較的安全な薬剤です。ただし体質によっては重篤な副作用が出現する可能性があるため、医師との連携は欠かせません。
ADHD治療薬の服用方法と注意点
ADHD治療薬は医師の指示に従って適切な用量とタイミングで服用することが大切です。また、症状の変化を医師に伝えることで、薬の種類や用量の調整につなげるため、定期的な診察を受けることも重要です。
本項目では、ADHD治療薬の服用方法と注意点についてご紹介します。
適切な用量と服用タイミング
ADHD治療薬の服用量や服用タイミングは、医師の指示に従うことが大切です。年齢や体重、症状の程度などを考慮して、適切な用量が決定されます。服用開始時は低用量から始め、徐々に増量していきます。効果と副作用のバランスを見ながら、最適な用量を見つけていくことになるでしょう。
服用を忘れてしまった場合は、思い出した時点で服用するのではなく、次の服用時間まで待ちましょう。重複して服用すると副作用のリスクが高まります。
医師の指示通りに服用することで、ADHD治療薬の効果を最大限に引き出すことができます。
定期的な医師の診察
ADHD治療薬の服用中は、定期的な医師の診察が欠かせません。服用開始後は頻回に通院し、症状の改善度合いや副作用の有無を確認します。その後は1〜3ヶ月に1回程度のペースで通院を続けることが大切です。
定期受診時には以下のことを医師に伝えましょう。
- 症状の変化(改善や悪化)
- 気になる副作用
- 日常生活や仕事・学校での変化
- 服薬状況(飲み忘れなど)
ADHD治療薬の服用は医師からの指示を守り、疑問があれば遠慮なく相談することが大切です。治療薬と適切な診察を組み合わせることで、ADHDの症状管理につながります。
ADHDの治療は薬と非薬物療法の併用がおすすめ
ADHDの治療では、薬物療法だけでなく、非薬物療法を組み合わせることが大切です。
- 環境調整、構造化
- 認知行動療法
- ソーシャルスキルトレーニング(sst)
以上の方法について詳しくご紹介します。
環境調整、構造化
ADHDの症状は、環境に大きく左右されます。そのため、生活環境を整えることが重要です。薬物療法だけでなく環境調整や構造化も取り入れましょう。
周囲の環境を工夫する「環境調整」や、日常生活に規則正しい「構造化」を取り入れることで、ADHDの人が予測可能な環境の中で生活しやすくなります。
環境調整や構造化の例は以下の通りです。
環境調整の例
- 視覚的な手がかりを活用(カレンダー、手帳の活用など)
- 不要な刺激を減らす(机の上を整理するなど)
- スケジュールを細かく決める
構造化の例
- 1日のスケジュールを事前に立てる
- 同じ時間に起床、就寝する
- 食事や服薬のタイミングを一定にする
環境調整と構造化を組み合わせることで、ADHDの症状をコントロールしやすくなるでしょう。
認知行動療法
認知行動療法は、ADHDの行動面と感情面の問題に働きかけるアプローチです。ADHDの人は、物事への認識や考え方にゆがみが生じやすく、それが行動や感情に悪影響を及ぼします。
認知行動療法では、セラピストとの対話を通じて、ADHDによる認知や行動のクセに気づき、より適応的な認知や行動に改善していきます。薬物療法と組み合わせることで、ADHDの症状管理と社会適応力の向上につながります。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)
ADHDの方は、対人関係を築くソーシャルスキルが苦手なことがあります。ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、そのスキルを学び実践する訓練法です。
ソーシャルスキルトレーニング(SST)では、ロールプレイなどを通して、具体的な会話や行動の方法を練習します。セッションを重ねることで、徐々に以下のような適切な対人スキルが身につきます。
- 自己主張の仕方
- 頼み方・断り方
- 感情のコントロール
- 場に合わせた行動の取り方
ソーシャルスキルは人生を通して役立つ大切な能力です。薬物療法と組み合わせることで、ADHDの二次障害の予防や、社会生活の質の向上につながるでしょう。
ADHDの薬に関するQ&A
ADHDの薬物療法について不安を感じるのは自然なことでしょう。しかし、適切な治療は、ADHDの症状を和らげ、日常生活の質を大きく改善する可能性があります。
本項目では、ADHDの薬に関するよくある質問にお答えします。回答を確認し、治療に対する理解を深めていただければと思います。
ADHDの薬を服用すると性格が変わるって本当?
ADHDの薬を服用すると「性格が変わる」と感じる人もいますが、薬そのものに性格を変える作用はありません。実際には以下のような変化が起きているのです。
変化の内容 | 説明 |
注意力の向上 | ADHDの中核症状である不注意が改善され、物事に集中しやすくなります。 |
衝動性の低下 | 衝動的な行動が減り、じっくり考えてから行動できるようになります。 |
多動性の改善 | じっと座っていられなかったのが、落ち着いて行動できるようになります。 |
このように、薬によってADHDの症状がコントロールされることで、本来の自分の性格が表れやすくなります。むしろ薬を服用することで、ADHDによって隠れていた良い面が引き出されると言えるでしょう。ただし、薬の副作用として怒りっぽくなったり、感情の起伏が激しくなる場合もあります。気になる症状がある場合は医師に相談しましょう。
ADHD治療は市販薬やサプリでも可能?
ADHDの治療は、医師の診断と処方に基づいた薬物療法が基本です。市販の薬やサプリメントでは、ADHDの中核症状を適切にコントロールすることは難しいでしょう。
病院で処方されるADHD治療薬は、厳格な臨床試験を経て、その効果と安全性が確認されています。ただし、薬の効果は個人差があり、合う・合わないはどうしてもあるものです。担当医との相談を通じて、自分に合った薬を見つけていくことが大切です。
市販薬やサプリは、有効性のエビデンスに乏しく、安全性も保証されていません。また、医師の診察を受けずに、自己判断で服用するのは危険です。
ADHD治療薬の服用は、医師の診断と処方、定期的な経過観察が不可欠です。市販薬やサプリに頼るのではなく、まずは専門医に相談することをおすすめします。
ADHD治療はみつだクリニックにご相談ください
ADHDの治療は薬物療法と非薬物療法を併用するのが効果的ですが、薬の種類や用量、服用タイミングなどは患者さんの状態に合わせて慎重に検討する必要があります。
みつだクリニックでは、ADHDの症状にお悩みの方一人ひとりに寄り添い、適切な治療計画をご提案いたします。
お子さんのADHD治療をお考えの方をはじめ、大人のADHD、大人の自閉症スペクトラム障害にも対応しております。
薬物療法のほか、心理士による心理検査、心理療法が可能ですので、ADHDでお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
診察は予約制となるため、初診・再診ともに事前のご予約をお願いいたします。
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まとめ
ADHDの治療では、薬物療法が中核症状の改善や二次障害の予防、社会生活の質の向上に効果的です。
治療薬の服用にあたっては、適切な用量と服用タイミングを守り、定期的な医師の診察を受けることが大切です。 また、薬物療法と非薬物療法を併用することで、より高い治療効果が期待できます。ADHDの治療でお悩みの方は、みつだクリニックへご相談ください。